冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー
振り向いて斜め後ろを見ると、架月が片耳のイヤホンを外しながら私の後ろの男の人の手首をつかんでいた。

「な、なんだよ、離せよ」
三十代くらいのサラリーマンみたいなその人は、すごく焦った顔と声をしている。
「しらばっくれんなよ。こいつのこと触ってただろ?」
「なっ……! ぬ、濡れ衣だ!」
往生際の悪さに架月が舌打ちする。
「腕、折ってやろーか?」
「どこに証拠が」
「陽波、こいつに触られてたよな?」
架月が怒りと呆れの交じった顔でこっちを見る。
「え……えっと、多分」
後ろだったから私からは全然見えなかった。
「多分だろ? 俺が痴漢だなんて証拠がどこに——」
せっかく架月が助けてくれたのに……。

「あ、あのぉ……」

私たち三人がもめていると、近くから声がした。
「わ、私も見ました。その人がその子のこと触ってるところ。それに、私も……さ、触られました」
犯人らしき人のそばに立っていた二十代くらいの女の人が証言してくれた。

「逃げんなよ?」
架月が青くなっている男を見下ろして、またいつもの冷たい顔で笑った。
< 28 / 73 >

この作品をシェア

pagetop