冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー
痛いのを想像してクリップボードをギュッと抱きしめる。
ボールが、私じゃない何かに当たった音が聞こえた。

そーっと目を開けると、予想外の光景が広がっていて心臓がはねた。

ボールが飛んできた方向の、私の真横に架月、そのすぐ向こうで志月が転がったボールを拾う。

「遅えんだよ」
架月がつぶやく。

どうやら、近くで見回りをしてた志月が助けにきてくれて……その前に架月がボールを弾いて助けてくれた?

「許可のないバスケコートの使用は禁止のはずだ」
志月がめずらしく怒りを感じる声色で言う。
「かたいこと言うなよ。遊びぐらい自由にさせろよ」
そう言って、架月は「ボールを渡せ」って言っているみたいに手を差し出した。
「バスケがしたいなら、バスケ部かどこかのクラブに入ればいいだろ? ボールは預かる」
「あ?」

不穏な空気が漂い始めて、まわりのみんなもなんとなく騒つき始める。
そもそも一之瀬兄弟がこうやって学校で会話をしている光景自体がめずらしくて、女子は色めき立ってるようにも見える。
「無許可でコートを使って、ケガ人が出たら誰が責任を取ると思ってるんだ?」
「遊びでゆるくやってるだけなんだからケガ人なんて出ねえよ。返せよ」
「現に今、陽波がケガするところだっただろ?」
志月の声は明らかに怒っている。

そんな志月に、架月がため息をついて不敵に笑う。
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