冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー


両親が離婚した架月は、はじめのうちはそれまでと何も変わらないように見えた。
だけど、そんなのは表面上だけのことだった。
それまでは架月と志月が二人で受けていた一之瀬家の後継者としての教育が、全部架月にのしかかった。
『今日も家庭教師?』
中一の秋、学校帰りの私が架月の言葉に驚く。
『ちょっと日数増やされちゃってさ』
『大丈夫?』
『うん、志月がいなくなった分も俺がやんないと』
『そっかぁ……』
中一なんてまだまだ幼かったから、〝忙しくて大変そう〟くらいにしか思ってなかった。
『でも、ヒナと遊ぶ時間は作るから』

そんな架月の言葉も、はじめのうちはうれしいとしか思わなかった。

だけど、だんだんと……
『あれ? 架月、部活は?』
『サボった。ヒナうち来る?』
『う、うん』
架月は習い事や家庭教師をサボらない代わりに、部活をサボるようになっていった。

あの頃はこのマンションの部屋にお手伝いさんが来ていたけど、夜になると架月は一人暮らし同然だった。
離婚前まではお母さんと志月がいたのに。

あの頃の架月がずっと重圧と孤独の中にいたんだって、今ならよくわかる。
< 47 / 73 >

この作品をシェア

pagetop