冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー
『そういえば志月って元気にしてるの?』
『さあ? 元気なんじゃない?』
『会ってないの?』
架月は無表情でうなずく。
『あいつも色々忙しいみたいだし』
志月の話をするとなんとなく表情をくもらせるようになったのも、その頃からだった。



その頃買ってもらったスマホは、親が決めたルールがセットだった。
普通は鬱陶しいと思いそうなそのルールに、私は少し安心していた。

『お母さんがね、あんまり長電話しちゃだめだって』
『じゃああと五分だけ』
毎晩のように長電話をしたがる架月を制止する言い訳に使えたから。

私だって、毎日学校で会ったって毎晩架月の声が聞きたかった。
だけど他の友だちと電話したい日だってあったし、家族と過ごす時間も必要だったし、見たいテレビだってあった。
長い時間を架月一人のためだけに使うことが負担になってしまっていた。

今でも、あの頃のことを思い出すと後悔で胸が締めつけられる。

スマホの向こうで架月が過ごしている夜の冷たさを、あたたかい場所にいる私は全然想像できてなかったってわかるから。

中学二年に上がった頃、架月は部活に全く顔を出さなくなった。
< 49 / 73 >

この作品をシェア

pagetop