冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー


——『俺にはヒナがいればいいんだ』

前に公園でそう言ってくれた架月が、さみしそうに笑った顔を思い出した。
『私、架月は自分の意思で今の家に残ったんだって思ってた』
『子どもにそんな権限無いよ。とくに一之瀬の家では』
『じゃあ架月は、お母さんが志月を選んだって思ってるの?』
あの家にひとりぼっちで。
お父さんの重圧も感じながら……。
『どうしよう、私……』
『陽波のせいじゃないよ』
『だけど……あんなに近くにいたのに、私、架月のこと全然わかってなかった』

重いなんて、怖いなんて、思ったらいけなかった。
あの夜は、架月のところに行かなきゃいけなかったんだ。

目から涙が溢れてくる。

『どうしよう……』

止まらなくて、外だっていうのに声を上げて泣いてしまった。


志月は多分、あの時の私の様子を見てたから高校から戻って来てくれたんだと思う。
私と架月が少しでも話せるようになるようにって。

だけどその頃にはもう手遅れで、架月は習い事なんて全部辞めて、学校もサボるようになってたし、隣にはいつも違う女の子がいた。
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