冷たい月 ー双子の幼なじみと消えない夜の傷あとー
あの頃より大きな胸に抱きしめられる。

「かづ——」
「俺、陽波とやり直したい」
耳元で言われて、心臓が耳についてるんじゃないかっていうくらい、速くて大きな鼓動の音が響く。
だけど……

「ダメだよ」
唇をグッと結んで、大きな身体をグイッと押す。

「私はもう、志月の彼女だもん。それを言うためにここに来たの」
「……そうだよな」

残念そうな架月の声に胸がキュッて鳴いてしまう。
だけど、志月を傷つけたらダメ。

「じゃあ私帰るから。おやすみ」
身体をくるっと帰り道の方に向ける。

「ヒナ」

心臓が大きく跳ねて、思わず振り返る。

「俺、三日月を見るたびに今でもヒナのこと思い出すよ」
今夜も空には三日月。

——『〝ヒナミ〟の〝ミ〟は架月にあげる。そしたらほら、〝ミカヅキ〟』

「ヒナは?」
うつむいて、首を横に振る。
「思い出さないよ、全然。……その呼び方ズルい、もう呼ばないで。じゃあね!」
そう言って、今度は振り返らずに早足で家に向かった。

帰り道、また涙が止まらなくて必死にぬぐう。

—— 『うれしい。三日月見るたびにヒナが俺のこと思い出すと思うと』

思い出さないわけ、ない……。
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