エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「ふぅ……」

 博明のスケジュールを追って、会議に同席するだけ。それなのに愛美は午前中だけでぐったりとしていた。

 会議の内容は会社の方針を決定する重たいものだし、メールはひっきりなしに来る。内容を把握するだけでも時間がかかってしまう。

(でもすごく楽しい。サエキ製菓がこれからどう成長していくのかが少しずつ見えていくみたい)

 営業事務の派遣だったら知ることもない内容ばかりだ。副社長秘書にもやりがいを見い出せそうなことに、愛美は安堵した。

 それに大小様々な案件を鮮やかに捌いていく博明の手腕を見ているのは、とても面白かった。

(ただの御曹司ではなく実力も伴っているんだ。すごいなぁ……)

 これから彼の秘書として働くのだ。相応しいと思ってもらえるように精進しなくては。
 愛美は急いで今の会議の議事録をまとめて博明に送る。

 ちらりと横目で博明の方を向くと、たまたまこちらを向いた彼と目が合った。

「日高さん、お昼ご一緒しませんか?」

 お昼、と言われて時計をちらりと見ると、もう正午を過ぎている。本当に無我夢中で働いたみたいだ。

「お誘いは嬉しいのですが、私はお弁当なので……」

 ようやく正社員になれたとはいえ、節約しないと生活がままならない。
 カバンからお弁当箱を出して博明に見せると、彼は少しだけ眉を下げた。

「そうですか、残念です」

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