エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
(嵐のような人ね。営業部……なにか一波乱あるのかしら?)

 室田は詳しく話さなかったが、良くない事が起こっている気がして少しだけ不安になった。
 最後は良い思い出とは言い難いが、愛美をずっと育ててくれた部署だ。

「営業部は大丈夫でしょうか」
「心配いりませんよ。室田に任せておいてください。それより……」

 隣に座っていた博明は、愛美の手をそっと握りながらこちらを向いた。

「営業からあんな話を聞けるなんて……その営業の方とは深い仲だったのですか?」
「え? な、仲?」

 博明からの予想外の質問に、愛美の頭は一瞬真っ白になった。

「どうなんですか? 例えば、お付き合いなさっていたとか」

 口調は柔らかいのに、触れられている手にどんどんと力が込められている。

「つ、付き合ってました。でも派遣が切られる直前に急に振られちゃって……今はなんの関係もありません!」

 綺麗な顔を近づけられ真剣な眼差しで見つめられると、口が勝手に動き出してしまう。

(私ったら、なんで余計なことまでペラペラと……!)

 それでも誰かと付き合っていると思われたくなくて、別れたことを強調した。
 愛美がきっぱりと言い切ると、博明はフッと頬を緩ませて握っている手の力を緩めた。

「そうですか。もう関係がないなら良かったです。もう取引先を悪く言うような方と付き合っちゃダメですよ」
「は、はい!」

 その日の博明はずっと上機嫌だった。

(佐伯副社長なんだか楽しそう。そう言えば、私のことイチオシ社員って言ってたみたいだけど本当かしら?)

 愛美は疑問を抱えつつ、いつもの業務に戻った。
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