エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない

3.彼の内側

 気がついたら定時を超えていた。
 午前中に予期せぬ来客があったせいか、あっという間に時間が過ぎていた。

「今日はもう終わりましょうか」
「はい」

 博明に声をかけられ、帰り支度を始める。
 愛美は博明がまだ上機嫌であることを確認してから、恐る恐る口を開いた。

「あの……室田さんとのお話のことで少し伺いたいのですが」
「何でしょう?」
「私のこと、以前からご存知だったのですか?」

 室田は愛美のことを『佐伯のイチオシ社員』と言っていた。つまり、資料室で会うよりも前から博明に認識されていたということだ。

(あの言葉が本当なら、資料室で私をスカウトしたのは偶然じゃない……?)

 思い切って聞いたものの、博明は何も言わなかった。

 そしてしばらくの沈黙の後――

「どう思いますか?」

 コテンと首を傾げて妖艶に微笑んだ。


 その表情に愛美の心臓はドキリと跳ねた。

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