エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 体調が復活し、出社しようとした朝のことだった。一通のメールが愛美のもとに届いた。

「嘘……」

 派遣会社からの『契約終了のお知らせ』というメールだった。

「今月いっぱいで無職……今の仕事、気に入ってたのに……」

 今の派遣先、サエキ製菓は日本を代表するお菓子メーカーだ。銘菓からお手軽な駄菓子まで幅広く販売しており、知らない人はいない大企業だ。そこの営業事務として働くことに、愛美はやりがいを感じていた。

 健吾と出会ったのも、サエキ製菓だった。

 営業部一課に配属され、最初にペアを組まされたのが健吾だった。営業の健吾をサポートすることですぐに距離が縮まり、入社三ヶ月目に付き合い始めたのだ。

 何でもはっきりと物を言う健吾は、頼もしくて魅力的だった。秘密の社内恋愛だったけれど、お互いに仕事とプライベートは分けて、うまくこなしていた。はずだったのに――

「仕事も恋人も一気に失っちゃった」

 不運なことは重なるものだ。
 それでも仕事を失うというのは、失恋よりもショックだった。

(健吾とどんな顔して仕事をしていいか分からないし、丁度いいタイミングだったのよ)

 愛美はなんとか自分に言い聞かせ、無理矢理口角を上げた。


 失恋も失業も自分の力ではどうしようもない。
 受け入れて次に進むしかないのだ。

「そうだ! 久しぶりにアレを食べてから行こうかな」

< 2 / 56 >

この作品をシェア

pagetop