エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
(綺麗な顔……初めて会った時も思ったけれど、本当に彫刻みたい)

 時間を忘れて見入ってしまいそうになる。

「どうって……分からないです……」

 美しい表情に導かれるまま馬鹿正直に答えると、博明は口元に手をあて軽く吹き出した。

「すみません、反応が可愛らしくて。お答えする代わりに、今日は一杯付き合ってくれませんか? 歓迎会も兼ねて」
「歓迎会?」
「日高さんが秘書になった歓迎会です。していませんでしたよね? ほら、行きましょう」

 肩を抱かれて会社の外まで連れ出され、そのままタクシーに乗せられた。

(歓迎会って……そんなの気にしないでいいのに)

 雇ってくれただけでも感謝の気持ちでいっぱいなのに、歓迎会だなんて身に余ることだ。

「あの、どこに向かってるのですか?」
「僕の行きつけのバーです。二人ですから居酒屋よりは落ち着けると思いまして」


 そう言って連れいていかれたのは、入口が少し分かりにくくなっている隠れ家のようなバーだった。

 中に入ると、落ち着いた空間が広がっている。
 少し暗めの照明が、上質な店内を密やかに照らしていた。

(敷居が高そうなバーだなあ。一人じゃ絶対に入れない場所だわ)

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