エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 博明と並んでカウンターに座ると、クラシカルな服を着たバーテンダーが少し微笑みながら「ご注文は?」と尋ねてきた。

「ここは食事もオススメなんですよ。いくつか頼みましょう」
「あ、はい、お願いします」

 博明の頼んだ料理はどれも美味しく、お酒も飲みやすいものばかりだった。
 身体にアルコールが回るにつれて、愛美の肩の力が抜けていく。

「このローストビーフとっても美味しいです。ソースもコクがあって……家でも作ってみたいな」
「その時は是非呼んでほしいものですね」
「えぇ!? せ、成功したら……お呼びします」
「僕、本気にしますからね?」
「ふふっ、頑張ってみますね」

 サングリアを飲みながら博明と軽口を叩き合う。お酒が入っているからこそ出来る会話だった。
 グラスが空になるまで飲んだところで、愛美はハッとした。

(つい楽しんじゃった。質問の答えを聞きに来たのに。でも……)

 ここに来た目的を思い出した愛美は、どう切り出すべきか考えたが答えは出ない。

(さっきだって勇気を出して聞いたのにっ!)

 一度濁された質問をもう一度するのは、最初よりも勇気がいるのだ。

「次は何を飲みますか?」
「えーっと、強めのものを……」

 こうなったらお酒の力を借りるしかない。そう思って強めの酒を要求すると、マスターがお任せでカクテルを作ってくれることになった。

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