エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「どうぞ、ブラック・ルシアンです」

　差し出された黒色の液体にそっと顔を近づけてみると、香ばしいコーヒーの香りがした。
　思い切って一口飲んでみると、喉が熱くなる。

「美味しい……ほんのり甘くてコーヒーの香りが良いですね」
「度数は強いので、気をつけてくださいね」

　ごくごくと飲む愛美に、博明が軽く忠告を入れる。
　ウォッカとコーヒーで作られるというブラック・ルシアンは、確かに度数が高そうだ。それでも飲みやすく美味しい味に、愛美はすぐ大好きになった。

（あー……気持ちいい）

　ふわふわと身体が軽くなっていく。思考も霞がかかってきて、ぼんやりとしてきた。


「本当に美味しいな。メロウクッキーに合いそう……」

　愛美の呟きに、博明が興味深そうに笑みを深めた。

「そう思います？」
「私の一番好きなクッキーなんです。あー食べたくなってきました」

　深く酔い始めた愛美の口からは、思ったことがそのまま出てしまう。


　そんな愛美の前に、見慣れたクッキーが差し出された。

　メロウクッキーだ。

「え！　すごい！　何でも出てくるんですね」

　愛美が目を丸くして驚いていると、マスターが去り際に微笑んだ。

「ここで使ってもらってるんですよ。僕もこれを飲んだとき合いそうだと思って」

　博明が自慢げにメロウクッキーをつまんで愛美に見せつけた。

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