エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「ふふっ、副社長って甘い物食べるんですね。私とおんなじだ」

 好物のクッキーが出てきたことと博明と同じ思考だったことが嬉しくて、愛美はクスクスと笑いがこみあげてきた。

 クッキーを頬張りながら笑っていると、右手に博明の手がそっと重ねられる。

「会社の外では名前で呼んでくださいね。愛美さん」
「じゃあ……ひ、博明、さん」
「はい、なんでしょう?」

 たどたどしく博明の名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに目を細めた。
 その表情があまりに眩しくて、愛美の心臓は鼓動が速くなる。

 愛美は一度、深呼吸をした。
 そしてグラスに左手をかける。

「会社でした質問のお答えを聞いてもいいですか?」

 ブラック・ルシアンを一口飲んでから質問すると、博明は苦笑いをしながら頷いた。

「室田は口が軽くて困ります。……愛美さん、貴女のことは名前だけ知っていました。あの資料室を作ったのは僕ですから」
「え? あの資料室を?」
「管理も僕がしています。だから、やたら名前が多い愛美さんのことを覚えてしまったんです。たくさん勉強されている方だな、次はどんな資料を置いたら読んでくれるだろうって」

 博明は、少し上を向いて懐かしむように微笑んだ。

「そう、だったんですね……。あの資料室には大変お世話になりました」

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