エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 会ったことはなくても、愛美のことを気にかけてくれていた。
 単なる派遣社員だった愛美のことを見ていてくれていた。

 そのことが嬉しいやら気恥ずかしいやらで、愛美は手元の酒に手を伸ばす。

「あんなに熱心に資料を読んでくれる人は、きっと仕事も真面目にこなす人だろうと思っていました。それを室田に話したことがあったんです。そうしたらちょうど正社員にするって聞いたので、やはり優秀な方だったんだと確信しました」
「あ、ありがとうございます」
「営業部が貴女を手放したのは愚かな選択ですが、僕にとっては幸運でした」

 右手がするりと撫でられて、愛美の心臓が再びドキリと音をたてた。

「あ、ありがとうございます。私も……ひ、博明さんに拾ってもらえたのは幸運でした」

 そう言いながらグラスを口に運ぶ。
 ごくごくと飲んで一息つくとこちらをじっと見つめる博明と目が合った。

(あ……)

 博明の視線が熱っぽくみえるのはどうしてだろう。
 目を合わせているのが恥ずかしくて、またグラスを持ち上げる。

 けれどグラスは空になっていた。

 そのことに気がついた時、急に酔いが回ってきた。
 目の前にいる博明の輪郭が、だんだんとぼやけていく。

「愛美さん、大丈夫ですか?」
「んん……? んぅ……ふふっ」

 博明が何かを話しかけてきた気がするけれど、愛美には届かなかった。



「まったく……あまり無防備だと、手を出してしまいますよ」

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