エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「あれ……」

 愛美は目をこすり何度か瞬きをする。いつの間にか眠っていたようだ。
 ゆっくりと上体をお越し、伸びをする。

(私……佐伯副社長と飲んでて……その後どうしたんだっけ? ……ん?)

 愛美が寝ていたのは見慣れぬソファーベッドで、肌触りの良い毛布が掛けられていた。

 嫌な予感がしてあたりを見渡すと、そこは見知らぬ部屋だった。

(ここってまさか……)

 冷や汗がドバっと吹き出てきたその時、部屋の扉が開いた。

「起きたのですね。酔いは醒めましたか?」

 博明は愛美とは正反対の穏やかな表情で部屋に入ってきた。

 先程まで見ていたスーツ姿ではなく、Tシャツにスウェットパンツ姿だ。
 左胸の部分にはブランドロゴが入っており、ラフなのに上品な佇まいに見える。

 その格好と濡れた髪を見るに、博明は風呂上がりのようだ。


 水も滴るいい男――


 そんな言葉が頭を過ぎった。
 その瞬間、愛美はパッと視線をそらす。彼のプライベートな部分に触れた気がして、いたたまれなかったのだ。

「副社長! ご、ご、ご迷惑をおかけてして申し訳ありません!! 私……お店で眠ってしまったみたいで……」

 謝っている間に、どんどんと記憶が戻ってくる。有り得ない失態に、愛美は土下座する勢いで頭を下げた。

 うつむいて博明からの叱責を待つ。ところが、博明はなぜか喉を鳴らして笑い始めた。

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