エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「シャワー浴びてきたらどうですか? もう終電もないですし」
「いいえ! タクシー呼びますのでっ」

 終電、という言葉に慌てて時計を見る。

(今何時? 三時!?)

 愛美が楽しく飲んでいた時は、まだ日付は超えてなかったはずだ。

 これ以上ウダウダと迷惑をかける訳にはいかない。
 愛美はスマホを引っ掴むと、勢いよく立ち上がった。

「ぅあっ……」

 立ち上がると目の前がぐにゃりと歪んで、再びヘナヘナと座り込む。

 博明はテーブルからグラスを持ってくると、愛美の肩を抱いて支えた。

「お水です。脱水症状かもしれません」
「申し訳ありません……」

 差し出されたグラスに口をつけると、冷たい水が身体に沁み渡っていく。
 グラスのお水を飲み干すと、ほっと一息ついた。

 もう一度立ち上がろうとしたが、身体に力が入らなかった。

(今は動けない、かも)

 博明は空になったグラスをひょいと取り上げると、ソファーベッドに愛美をゆっくりと押し倒す。

「はい、横になってください」
「へ?」
「ほら、もう少し寝たほうが良さそうなので。あぁ、横を向いてくださいね。嘔吐する時、危険ですから」
「あのっ……」

 抗議する間もなく横向きに寝かせられ、まぶたの上に手を乗せられる。ふわりと石鹸の香りが鼻をくすぐった。

(こんなんじゃドキドキして眠れないっ……)

 うるさいくらいに高鳴っている心臓の音は、博明にまで聞こえてしまいそうだ。

(ダメ……帰らなきゃ)

 迫りくる眠気に抗いながら起きようとするけれど、少しごつごつとした手が温かくて、気がついたら眠ってしまっていた。

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