エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「おはようございます。朝食が出来ましたよ」

 柔らかい声と肩を軽く揺すられる感覚に、愛美は目を覚ました。

「んん……博明、さん?」

 まどろみながら声のする方を向くと、額に柔らかい感触がした。

「ほら、寝ぼけてないで起きてください」
「は……い……はい!?」

 愛美はガバリと起き上がると、昨夜の出来事が走馬灯のように駆け巡った。 

(酔いつぶれて寝ちゃって……帰ろうと思ったら、また寝てたってこと!?)

 お詫びの言葉もないとはこのことだ。
 愛美は口を開くが、パクパクとするだけで何も言うことが出来なかった。

 いま鏡を見たら真っ白な顔が映るだろう。それくらい身体が冷えきっていた。

「まだ体調が優れませんか?」
「イ、イエ……ダイジョウブデス」

 顔も頭も真っ白のまま、リビングのテーブルへと案内される。
 そこには焼き立てのパン、目玉焼き、ミネストローネが湯気を上げていた。

 促されるまま席に着いて周囲を見渡す。

 広いリビングには最低限の家具しかない。
 奥にある大きな窓には眺めの良い景色が広がっていた。

(高層階だ……)

 薄々勘づいていたが、サエキ製菓の御曹司兼副社長は相当良い暮らしをしているようだ。

 愛美は思わずテーブルに触れていた手離して膝の上に乗せる。
 このテーブルも食器も、触れるのに忍びない程高級に違いなかった。

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