エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 気がついたら昼前だった。

「そろそろお開きにしましょうか。家まで送りますよ」
「……ありがとうございます。お願いします」

 本当は自分で帰るべきだった。
 けれどなんだか名残惜しくて、もう少しだけ博明と話していたくて、甘えることにしたのだ。

(あと少し、一緒にいたい。上司と部下に戻る前に、少しだけ)




「では行きましょう。乗ってください」

 ダークブルーの車はシャープな形をしており、博明に良く似合っていた。
 助手席に座ると、ほんのりと甘やかな香りがする。

 博明は少し微笑むと、車を出発させた。



 愛美はドキドキと煩い心臓は一旦無視して、ハンドルを握る博明に問いかける。

「博明さんに何かお礼がしたいです。私に出来ること、何かありませんか?」
「気になさらなくていいのに。でも、そうですね……」

 博明は真剣な眼差しで運転をしながら、愛美の質問に熟考していた。

「では……明日、お願いしたいことがあるのでお会いできますか?」
「はい! もちろんです!」
「では十三時に迎えに来ますね」


 愛美を家まで送り届けた博明は、そう言い残して颯爽と帰っていった。
< 30 / 56 >

この作品をシェア

pagetop