エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 連れてこられたのは、郊外の水族館だった。
 駐車場に車を止めて中に入ると、何組かの家族連れやカップルが楽しそうに歩いている。
 
 都会とは違う穏やかな時間が流れていた。

「意外でした」

 愛美の口からこぼれた言葉に、博明は少しだけ微笑んだ。

「水族館は結構好きなんですが、休日は男一人だと居心地が悪いんです。愛美さんになんでもお願い出来ると聞いた時、一番にここを思いつきました」
「これくらいのことでしたら、いつでも誘ってください。私で良ければ付き合いますよ」
「ありがとうございます。では早速行きましょう」

 順路と書かれている方にエスコートされて、小さい魚から順番に眺めていく。すいすいと泳いでいる魚たちは時折予想外の動きを見せるので、つい見入ってしまう。

(なんか癒されるなー)

 ゆらゆらとヒレを動かす熱帯魚を眺めていた時、ふと水槽のガラスに映った博明が目に入った。彼は静かに魚を眺めていたが、子どものように目がきらきらと輝いていた。
 思わず笑みがこぼれる。

 愛美の様子に気がついた博明は、不思議そうに愛美の方を見た。

「どうかされましたか?」
「本当にお好きなんだなと思って。とても楽しそうに眺めていたから、嬉しくなってしまいました」

愛美がそう言うと、博明は「あぁ」と合点がいったという顔をした。
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