エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「本当ですか!? 実は……私も同じ勘違いをしていました。優しいとかの意味だって知らなくて。人魚が食べてるクッキーなのかなーって想像したりして」
「愛美さんの方が可愛らしい発想です」

 二人で顔を見合わせて笑い合う。穏やかで心地良い。まさに『メロウ』な時間だった。

「ジュゴンはクッキー食べてくれそうな可愛さがありますね! ほらっ、この子とか」

 さっきから愛美の真ん前でのんびりしているジュゴンを指さした。
 飼育員が落とした餌をもぐもぐとしている姿は、至極幸せそうだった。




 水族館を後にした二人は、重厚な門の前に立っていた。

(帰りに食事でもって言われたけど、ここって……)

 ランタンのようなガーデンライトに照らされたそのお店は、昔修学旅行で見た迎賓館のような佇まいだった。

「ここ、ドレスコードがありそうですけど……こんな格好じゃ……」

 愛美は心配そうに博明を引き留めた。

「大丈夫ですよ。知り合いの店ですし、僕もほら、ジーンズだし」
「それは確かにそうですけど……」

 二の足を踏んでいた愛美の肩を押して、博明が中へと進む。
 博明かドアマンにアイコンタクトをすると、にっこりと微笑まれ、そのまま中へと案内された。
 知り合いの店というのは本当のようだった。


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