エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない

5.芽生えた自覚

 博明とデートしてから二週間以上が過ぎた。
 二人の関係性には少しだけ変化があった。

 就業中はこれまで通りの距離感だが、終業後――

「愛美さん、今日この後いかがですか?」
「大丈夫です。行けますよ……ひ、博明さん」

 名前で呼び合い、時折デートをする。そんな関係になっていた。

(デートと言っても食事をしたり、散歩をするだけなんだけど……)

 それでも二人で過ごす時間は、愛美にとってかけがえのないものになっていった。




 爽やかなある日の朝、愛美の気分は少し上がっていた。

(一本早い電車に乗れちゃった……。執務室の掃除でもしようかな)

 せっかく時間が出来たのだから有効活用したい。その気持ちが愛美の足取りを軽くした。

 いつもより人気の少ない道を通って会社の前まで来た時、横から急に腕を引かれた。

「きゃっ……!」
「おい! どうなってるんだよ? なんでお前が副社長の秘書なんかしてるんだ!?」

 道の端に愛美を追いやったのは、ものすごい剣幕の健吾だった。

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