エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「健吾……どいて、私急いでるの」

 愛美は無機質な声で答えると、掴まれた腕をさっと振りほどいた。
 そのまま会社の入り口に向かおうとするも、健吾が退く気配はない。

 それどころか愛美を見下して、顔を歪ませながら口を開いた。

「はっ、すましやがって! 営業部に迷惑かけといて、この会社に居座る度胸だけは褒めてやるよ。お前みたいな愚図が秘書なんて務まるはずないけどな!」
「……」

 愛美が黙ったまま健吾を見つめると、健吾はイライラとした様子で舌打ちをした。

「お前、副社長に余計なことを言ってないだろうな?」
「余計なことって? 何?」

 愛美の強い口調に健吾は言葉を詰まらせた。

「何なの? 愚図な私でも分かるように言ってよ」
「っ……とにかく、さっさと辞めてこい! 俺に振られてショックだったんだろ? 言うこと聞いたらまた付き合ってやるから」

(はぁ? 意味が分からない)

 こんな自信過剰な人だっただろうか。別れてから見る健吾は、今までと全く違って見えた。

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