エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
(働きやすい環境だったから、長居しちゃったなぁ。こんなことなら早く転職先を探すんだったな)
通勤電車に揺られながら、通り過ぎていく街並みを眺める。いつもの通勤経路のはずなのに、いつもより会社が遠く感じた。
営業部のフロアに入ると、一課の皆がチラチラとこちらを見ている。もう示達が出ているのかもしれない。
居心地の悪さに息を潜めていると、課長から呼び出された。
「派遣会社から連絡があったと思うが、今月いっぱいで契約は終了だ」
「理由を伺ってもいいですか? 正社員にしてくださるとおっしゃいましたよね?」
なにか問題があったなら改善したい。改善点があるなら転職活動にも役に立つかもしれない。
そう思って聞いたのだが、課長は目をそらしながら気まずそうに口を開いた。
「あー……人事に推薦していたし、期待してたんだけど……ここ最近、営業からの苦情がすごくてね。マルチカフーズやサンオウデパートの案件ミス、君の資料のせいだと聞いたよ。確認しなかった営業も悪いが、資料作成が杜撰すぎるのは困るな」
「え!? そんなはずは……」
言いかけて口をつぐんだ。健吾がこちらを睨んでいたからだ。
(マルチカもサンオウも全部健吾の案件だ……。確かに資料作成を少し手伝ったけど、健吾も課長も問題なく承認したじゃない!)
名前が挙がった二社は、健吾が愚痴をこぼしていた取引先だ。
愛美は過去販売数のデータをまとめただけで、そのデータもダブルチェックをクリアしていた。
(確か、類似製品を扱う他社に乗り換えられたって話よね? 売り込み方の問題じゃないの?)
愛美が黙っていると、課長は言葉を続けた。
「会社に不利益を及ぼす派遣社員に対して、契約を更新することは出来ない。すまないね。有給休暇は全て消化していいから」
それはつまり、もう会社に来るなと言うことだった。
優しい言い方だったけれど有無を言わせぬ言葉に、愛美は会釈をしてそっと席に戻った。
(会社にとって、私より健吾の方が重要ってことね)
派遣社員の立場がこれほど辛く感じたのは、今日が初めてだった。
通勤電車に揺られながら、通り過ぎていく街並みを眺める。いつもの通勤経路のはずなのに、いつもより会社が遠く感じた。
営業部のフロアに入ると、一課の皆がチラチラとこちらを見ている。もう示達が出ているのかもしれない。
居心地の悪さに息を潜めていると、課長から呼び出された。
「派遣会社から連絡があったと思うが、今月いっぱいで契約は終了だ」
「理由を伺ってもいいですか? 正社員にしてくださるとおっしゃいましたよね?」
なにか問題があったなら改善したい。改善点があるなら転職活動にも役に立つかもしれない。
そう思って聞いたのだが、課長は目をそらしながら気まずそうに口を開いた。
「あー……人事に推薦していたし、期待してたんだけど……ここ最近、営業からの苦情がすごくてね。マルチカフーズやサンオウデパートの案件ミス、君の資料のせいだと聞いたよ。確認しなかった営業も悪いが、資料作成が杜撰すぎるのは困るな」
「え!? そんなはずは……」
言いかけて口をつぐんだ。健吾がこちらを睨んでいたからだ。
(マルチカもサンオウも全部健吾の案件だ……。確かに資料作成を少し手伝ったけど、健吾も課長も問題なく承認したじゃない!)
名前が挙がった二社は、健吾が愚痴をこぼしていた取引先だ。
愛美は過去販売数のデータをまとめただけで、そのデータもダブルチェックをクリアしていた。
(確か、類似製品を扱う他社に乗り換えられたって話よね? 売り込み方の問題じゃないの?)
愛美が黙っていると、課長は言葉を続けた。
「会社に不利益を及ぼす派遣社員に対して、契約を更新することは出来ない。すまないね。有給休暇は全て消化していいから」
それはつまり、もう会社に来るなと言うことだった。
優しい言い方だったけれど有無を言わせぬ言葉に、愛美は会釈をしてそっと席に戻った。
(会社にとって、私より健吾の方が重要ってことね)
派遣社員の立場がこれほど辛く感じたのは、今日が初めてだった。