エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 結局、博明に支えられながら副社長室までなんとかたどり着いた。
 人が少ない時間帯だったのは幸いだった。

(あんな姿を誰かに見られたら、副社長まで噂の的になってしまうわ)

 見慣れたいつもの部屋のソファーに座ると、愛美はようやく落ち着くことが出来た。


 目の前に、そっとコーヒーカップが差し出される。

「落ち着きましたか?」

 博明が心配そうな顔で愛美の顔を覗き込んだ。

「はい。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
「まだ始業まで時間がありますから、ゆっくりしてください」
「……ありがとうございます」

 博明の淹れてくれたコーヒーを一口飲んで、ほうっと息をついた。

(健吾は私のこと恨んでいるのかしら。なぜ……? 振られたのは私の方なのに)

 怒りに満ちた目で睨まれた瞬間がフラッシュバックし、ぶるりと身体を震わせた。

『お前、副社長に余計なことを言ってないだろうな?』

 その言葉が引っ掛かっていた。
 副社長に何かを言っていないかを気にしていた。

(一体何があったの?)

 そこまで考えた時、室田のことを思い出した。
 健吾は怒っているだけでなく、焦っているようにも見えた。

「何が起きているのかしら」
「愛美さんは気にする必要ありませんよ」

 気がついたら博明が小さなお皿を持って横にやって来ていた。
 お皿にはカラフルなクッキーが乗っている。

「これ……」
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