エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「メロウクッキーです。気分転換にはこれが良い言っていたでしょう?」
「私、酔った時にそんなことまで言ったのですね」

 クッキーを一つつまんで口に運ぶ。いつもの優しい味が口に広がると、鼻の奥がツンとした。

 涙と一緒に飲み込んだメロウクッキーは、少ししょっぱかった。

「ありがとうございます。もう大丈夫です!」

 気分を切り替えて笑顔を作ると、博明が一歩、近づいてきた。

 そして愛美の頬に手を添えると、唇が触れそうなほど顔を近づけた。

「無理していませんか?」

 博明の甘やかな声が、愛美の耳を撫でる。

 優しくされると、また泣いてしまいそうだ。
 愛美は震える唇に力を込めて頷いた。

「我慢しないで。さっきのことは忘れさせてあげます」
「え……?」

 愛美が不思議そうな声を出した瞬間――

 額に柔らかな感触がした。

 チュッと音がして、博明がゆっくりと離れる。

「おまじないです。さて、そろそろ仕事を始めましょうか」
「は、はい……???」

 愛美は額に手を当てた。

(今の、なに……?)

 慌てて博明の方を見ると、デスクに向かっていつも通りの業務を始めている。

 愛美も急いでデスクに向かう。

 もう一度額に触れると、温かさが残っている気がした。
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