エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 予定もないのに定時に上がったのは久しぶりだ。

「はぁ……」

 まだ日が傾いていない空を眺めて、愛美はため息をついた。

(家に帰ったら余計なことを考えちゃいそう……どこかで飲んでいこうかな)

 スマホでグルメアプリを開く。
 クーポンでも探そうと適当にスワイプしていると、スマホが震えた。

「あ……!」

『ひさしぶり。今日飲まない?』

 スマホの画面には、今一番欲しい言葉が書かれていた。




「え? 別れたの? しばらく会わない間に急展開!」

 目を見開いて愛美の話を聞いているのは、大学からの親友の楓だ。
 就活が上手くいかなかった頃もずっと相談に乗ってくれて、社会人になってからもこうして時々飲みに誘ってくれるお人好しだ。

 がやがやと賑わう居酒屋の隅の席で、愛美はビールをごくりと飲みこんだ。

「うん……てか振られたんだけど。真面目すぎて疲れるって急に言われちゃって」
「マジかあ、結構ラブラブだったのにねー。でも、もっと落ち込むかと思ってた。愛美すっごく好きだったでしょ? 好きっていうか、もはや依存?」

 依存という言葉に愛美の心臓がチクリと痛んだ。

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