エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 考えないようにしていたけれど、愛美は確かに健吾に依存していた。
 彼の言うことは何でも聞いたし、彼の喜びだけが自分の喜びだった。

 だからこそ、いつも健吾の機嫌を損ねないように行動していたのだ。それが恋だと思っていた。

(あれは確かに依存だった。健吾が飽きたのも少しは分かる……)

 自分に従順な人形。最初は気分が良いだろう。だがそんな関係は健全ではない。
 いつかは終わる運命だったのだ。離れた今はそれがよく分かる。

「新しい仕事が楽しくて、色々考えなくて済んだのかも」

 愛美がポツリと呟くと、楓の表情がパッと明るくなった。

「良いじゃん! あぁー愛美からそんな言葉が聞ける日が来るなんてね……。正直、別れたって聞いてホッとしたよ。絶対ロクな男じゃなかったもん! 今まであんまり言わないようにしてたけどさ」

 ビールを一口飲みながら「本当に心配だったんだからね!」と口をとがらせる楓に、愛美は胸がじんわりと熱くなった。
 口に出さずとも見守ってくれていた友がいたこと、それが堪らなく嬉しかった。

 愛美もビールを一口飲んで、「ありがとう。心配かけてごめんね」と微笑んだ。
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