エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 それから楓の恋愛話を聞いたり、仕事の話をしたり。
 ビールの量と比例して、話はどんどん盛り上がっていった。

「愛美の失恋を忘れさせてくれる仕事ってどんなの?」
「実は派遣で働いていた会社で正社員になったんだけど……」

 博明との出会いを打ち明けると、楓は高揚したようにテーブルにバンと手をついた。

「愛美ツイてるじゃん! その副社長、良い男すぎん?」
「すごく優しい人ではあるね。実は今日、健吾に絡まれたんだけど……」

 楓に今朝の出来事を告げると、楓は両手を頬に当てて「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。

「えぇー! ヒーローみたい! 聞いてるだけでキュンキュンしちゃうよ。健吾のこと引きずらなかったのって、その副社長のおかげってことだね」
「そっか……そうだね」

(そうだ。佐伯副社長のおかげで……)

 今朝はあんなに怖かったのに、気がついたら健吾のことは忘れていた。
 むしろ博明のことばかり考えていた。

 口づけだって嫌じゃなかった。
 むしろ――


 好き。



 愛美は自分の気持ちをようやく理解した。
< 46 / 56 >

この作品をシェア

pagetop