エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
(これは仕事。佐伯副社長から直々に頼まれた大切な仕事……)

「よし、行くぞ」

 小さい声で気合を入れてから営業部の扉を開けた。


 営業部のフロアでは、懐かしい面々がデスクに向かって真剣な表情をしていた。

(私も少し前までここで……)

 ほんの一瞬、懐かしさと寂しさで胸が締め付けれらるような気持ちになった。
 けれど愛美が感傷に浸る前に、大声がフロアに響き渡った。

「どの面下げて来たんだ!」

 思わず肩を揺らして声の方向を見ると、顔を真っ赤にした健吾がこちらに向かってきていた。

「健吾……」
「営業一課に何の用だ! あれか? 落ちこぼれた俺の姿でも見に来たのか!?」
「よしなさい高橋」

 課長が慌てて駆け寄ってきて健吾を嗜める。

「驚かせてすまないね。こんなことを言えた義理じゃないが、元気にやっていて何よりだ」
「いえ……はい。お久しぶりです」

 しばらく見ない間に課長は痩せたみたいだ。
 老け込んだ課長が申し訳無さそうに頭を下げる姿は、なんだか見ていられなかった。

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