エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない

（とにかく大人しくしていよう……）

　愛美は息を潜めて博明の後ろでじっとしていた。
　にもかかわらず、健吾は愛美を指さして声を絞り出した。

「全部……全部こいつが悪いんだ。俺を騙していたんだ！　こいつのせいで俺は取引先に舐められたんだ！　事務しか出来ないくせに……！　女としても中途半端なくせにっ……うあぁっ！！」

　段々と声を荒げていた健吾は、突然悲鳴を上げた。
　いつの間にか博明が、片手で健吾を床に押さえつけいる。

　頭を床にこすりつけられた健吾は、うめき声をあげている。

「煩いですよ。周囲に迷惑です」
「うぅ……くそっ！！」
「さて、後は人事部に任せましょう。行きますよ、日高さん」

　博明は周囲に聞こえるようにそう言うと、再び愛美の腰を抱いてその場を後にした。