エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
 博明は愛美の隣に腰を下ろすと、身体ごと愛美の方を向く。

「今日は疲れたでしょう? 申し訳ありません」

 そのまま深く頭を下げた。

 愛美は狼狽えた。副社長が理由もなく一介の社員に頭を下げるなんて、あってはならない。

「謝らないでください。博明さんは悪くありませんから」

 健吾と課長が起こした問題を謝罪する必要などない。
 だが博明はうつむき気味のまま首を振った。

「いいえ、僕は貴女をわざと営業部に向かわせました。高橋健吾に謝罪の機会を与えようとしたのです。結果は惨憺たるものでしたが……」

 博明は今日懲戒通知が出ることを知っていたはずだ。
 明日からしばらく健吾は出社出来ない。だから謝罪させるなら今日だったのだろう。

「そうでしたか。副社長……博明さんは優しいのですね。どんな社員にも愛情をもって接していて……私はいつもそんな博明さんに救われています」
「でも貴女を傷つけました」

 弱々しい声。伏せた顔。
 いつも凛としている博明が、ひどく落ち込んで見えた。

 愛美は少し迷った末に、そっと博明の手に触れる。

「そんなことありません。あんなことでは傷つきませんよ。あんな人とは別れて正解だった、って再認識出来ましたから」

 明るくそう言うと、博明はようやく顔を上げた。

「僕のこと、許してくれますか?」
「もちろんです! そもそも、最初から怒ってませんよ!」

 愛美のきっぱりとした態度がおかしいのか、博明は口角に笑みを浮かべた。

「それを聞いて安心しました」
「へ……?」

 博明はソファーから降りてラグに膝をついた。
 そして愛美に片手を差し出したのだ。

「好きです愛美さん。結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
「え……えっ?」

(今、なんて言った? お、お付き合い!?)

 突然の告白に、愛美の脳はフリーズした。

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