エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
親しげに話しかけてきたその男性は、人当たりの良さそうな柔らかな声色をしていた。
けれど見た目は彫刻のように整っており、威圧感すら感じるような美の迫力があった。
艶やかな黒髪にすっと通った鼻筋。切れ長の目はにこりと微笑んでいるけれど、ブラウンの瞳は全てを見通しているかのような光を宿していた。
「あ……どうも。私はこれを返したら失礼しますから」
持っていた資料をひょいと掲げて急いでもとの場所を探す。
涙は見られていないはずだ。綺麗な人にぐしゃぐしゃな顔を見られたくなくて、この場から早く立ち去ろうとした。
(なんか見られてる気がする……早く戻ろう)
人が二人もいると、狭い資料室が余計に狭く感じる。否が応でも相手の存在を意識せざるを得ない。見られているのは気のせいだと思っても、居心地が悪かった。
「僕が探したいのは、まさにその資料なんです。日高愛美さん?」
中々戻す場所が見つからず焦り始めた時、優しく、けれど笑いを含んだ声が背中から追いかけきた。
名前を呼ばれた愛美は思わず振り返った。
「どうして名前を……」
派遣社員には名札がない。その上、首からさげているのは仮の従業員証だ。名前なんてどこにも書いていない。
それなのに彼は愛美の名前を呼んだのだ。
「貸出簿には貴女の名前しかありませんから」
「あっ」
男性は貸出簿をぱらりと開いて愛美に指し示した。
けれど見た目は彫刻のように整っており、威圧感すら感じるような美の迫力があった。
艶やかな黒髪にすっと通った鼻筋。切れ長の目はにこりと微笑んでいるけれど、ブラウンの瞳は全てを見通しているかのような光を宿していた。
「あ……どうも。私はこれを返したら失礼しますから」
持っていた資料をひょいと掲げて急いでもとの場所を探す。
涙は見られていないはずだ。綺麗な人にぐしゃぐしゃな顔を見られたくなくて、この場から早く立ち去ろうとした。
(なんか見られてる気がする……早く戻ろう)
人が二人もいると、狭い資料室が余計に狭く感じる。否が応でも相手の存在を意識せざるを得ない。見られているのは気のせいだと思っても、居心地が悪かった。
「僕が探したいのは、まさにその資料なんです。日高愛美さん?」
中々戻す場所が見つからず焦り始めた時、優しく、けれど笑いを含んだ声が背中から追いかけきた。
名前を呼ばれた愛美は思わず振り返った。
「どうして名前を……」
派遣社員には名札がない。その上、首からさげているのは仮の従業員証だ。名前なんてどこにも書いていない。
それなのに彼は愛美の名前を呼んだのだ。
「貸出簿には貴女の名前しかありませんから」
「あっ」
男性は貸出簿をぱらりと開いて愛美に指し示した。