エリート御曹司は不運な前向き社員を甘くとらえて離さない
「随分とマニアックな資料を読んでいるんですね。勉強熱心で尊敬します」
「そんな……でも専門書は買うと高いし、社内データはここでしか見られないし、ここの資料室はずっと重宝していました」
愛美は本棚に触れながらそっと微笑んだ。こんな風に褒めてくれる人なんて、今までいなかったから。
「重宝していたって、過去形なんですね」
「もう使えなくなりますから。私、退職することになったので」
退職という言葉に彼は片眉をひょいと上げ、怪訝そうな表情をした。
「理由を聞いてもいいですか?」
「派遣社員なので……契約満了なんです。正社員登用の話も上がっていたんですが、消えてしまいました。でも派遣社員なんてそんなものですよね」
なぜだろう。この人の前では簡単に口を開いてしまう。
愛美がつい話しすぎたと気づいた時には、彼の綺麗な顔が歪められた後だった。
悲しそうな顔をさせるのが申し訳なくて、愛美は慌てて言葉を付け加えた。
「あのっ、でも、ここで働けて幸せでした。私、ここのお菓子が大好きだったので! 良い経験だったと思って転職活動頑張ります! あ、この資料どうぞ! では失礼します」
一礼をして、優しい彼のわきを通り過ぎようとしたその時――
「では僕のところで働きませんか?」
彼に腕を掴まれた。
「え? 一体何を……」
にっこりと微笑む彼は、何を考えているのか全く読めなかった。
「そんな……でも専門書は買うと高いし、社内データはここでしか見られないし、ここの資料室はずっと重宝していました」
愛美は本棚に触れながらそっと微笑んだ。こんな風に褒めてくれる人なんて、今までいなかったから。
「重宝していたって、過去形なんですね」
「もう使えなくなりますから。私、退職することになったので」
退職という言葉に彼は片眉をひょいと上げ、怪訝そうな表情をした。
「理由を聞いてもいいですか?」
「派遣社員なので……契約満了なんです。正社員登用の話も上がっていたんですが、消えてしまいました。でも派遣社員なんてそんなものですよね」
なぜだろう。この人の前では簡単に口を開いてしまう。
愛美がつい話しすぎたと気づいた時には、彼の綺麗な顔が歪められた後だった。
悲しそうな顔をさせるのが申し訳なくて、愛美は慌てて言葉を付け加えた。
「あのっ、でも、ここで働けて幸せでした。私、ここのお菓子が大好きだったので! 良い経験だったと思って転職活動頑張ります! あ、この資料どうぞ! では失礼します」
一礼をして、優しい彼のわきを通り過ぎようとしたその時――
「では僕のところで働きませんか?」
彼に腕を掴まれた。
「え? 一体何を……」
にっこりと微笑む彼は、何を考えているのか全く読めなかった。