女好きの最低男がなぜか私だけ溺愛してくる
☆☆☆

「藤の花がキレイだね」

公園のベンチの頭上には沢山の藤が咲いていて、そういえば今は藤の季節だったなと思い出す。

これからどんどん夏へ向けて季節は加速していくんだろう。
だけど、今はそんなことに思いを馳せている場合ではなかった。

「小泉さん、松島浩子を知ってますよね?」
居住まいを正して単刀直入に質問する。

小泉大樹はしばらく考える素振りを見せたあと「いや、知らない名前だよ?」と言った。
「嘘をつかないでください。私と同期の子です」

「佐藤さんと同期の松島浩子さん……? ごめん、ほんとうにわからないや」
眉を下げて申し訳無さそうに答える姿に苛立ちを覚えた。

あの日、1人で飲んで泣いていた浩子の顔を思い出す。
浩子は小泉大樹のことをあれほど思っていたのに、この男は浩子の名前も覚えていなかったんだ。
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