月とスッポン 牛に引かれて
手を引かれて善光寺
車を降り、裏から境内に入っていく。
早めの時間に到着したつもりだけど、さすが善光寺。
すでに多くの拝観者で賑わっている。
「とりあえず本堂へ挨拶へ行きましょう」
いつの間にか、拝観券を手にした大河が私の手を握って歩き出す。
少しでも距離が空けば、すっと抜けてしまいそうな力加減が心地よいと思ってしまうのは、前回鎌倉の名残だと思う。
父親や母親と手を繋ぐ子供はこんな気持ちなはずだ。
たぶん、知らないけど。
靴を脱ぎ中へと入っていく。
「自分の治したいところをびんずる尊者へ触れると治していただけるそうです」
うん、書いてある。
びんずる尊者の足を撫で
「これ以上苦しくなりませんように」
と心の中で唱える。
「足の調子が悪いのですか?」
「あ、あぁ。今日もいっぱい歩く予定だから」
当たり障りのない答えをこれ以上突っ込まれないように
「頭を撫でたらどうですか?」
軽い口調で誤魔化す。
「頭ですか?特に必要ないと思いますけど」
当然の事の様に言う大河に
「その思考がヤバい」
と苦笑いで答える。
「茜の前だけなので、問題ありません」
ちょっと意味がわからない
広大な畳が敷き詰められた内陣に圧倒され、上を見上げれば燦然と輝く装飾に言葉を失う。
そこに立てば、時が止まっているかのように感じさせられる。