月とスッポン  牛に引かれて
また握られた手を見れば戻ってきたんだ。

と小さく息を吐いた。

「暗くて実感がありませんね。本当にあの感触が錠前なんでしょうか?」

私1番の頑張りを無にするな

「あれが錠前って事で良くないですか?」

ニコッと笑った大河は
「そういう事にしておきましょう」
と歩き出す。

山門へと向かうかと思えば、まっすぐ御朱印所へと向かっていく。

数人が並ぶ列に並べば、すぐに出せるようにと御朱印帳を広げている。

「あれから増えましたか?」

何気なく聞いただけなのだが、なんて顔をしている。

「御朱印は1箇所につき一枚。茜といった場所で貰うと決めてますから」

知らんがな
思わず声に出る。

その声に大河は書いて貰った御朱印を小脇に抱え

「御朱印は茜と出掛けた時の大切な思い出です」

そう微笑む大河に、言う言葉はない。

目を細めてなんて言おうか悩む私をよそに、
「山門に登りますよ」
と手を引いていく。

時間が経つにつれ、少しづつ増えていく拝観者の波に飲まれないように、逸れないように、手を繋いでいるんだ。

うん、そうだ。違いない。

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