月とスッポン  牛に引かれて
難攻不落の上田

途中でコンビニに寄っても、上の空な大河に

「よしよし、そのまま黙って見ていなさい」

と買った飲み物を差し入れてして、気ままにハンドルを握る。

流れてくるBGMを口ずさみながら、ひた走る。

これが私の求めていたドライブだ。

善光寺でゆっくりし過ぎたせいか、上田城に着く頃には、少し日が落ちて始めていた。

「もう1箇所ぐらい行きたいと思ってましたけど、無理そうですね」

少し悲しいけど、それぞれの幸せな最後を見守りながら呟く。

「明日、松本に向かう前にまわりますか?」

未だ画面に釘付けの大河は未だ心ここに在らず状態で言う。

「そうすると安曇野へ行けなくなりますね。どちらを取るか、それが問題です」
「それは悩ましいですね」

全く持って心がこもっていない。

車の鍵を大河に渡し

「先に行ってますね。ごゆっくりどうぞ」

外に出て、大きく伸びをしてからゆっくりと歩き出す。

裏手の駐車場に車を停めたようで、目的の櫓門まで公園内を歩く。

木々に空を隠されて、少し暗くなっている公園に足がすくみそうになる。

無意識に右手に力が入る。

遠くで人の気配はするが、誰もいない公園は少し怖い。

力の入った右手をグー、パーを動かして、力を逃す。

これぐらい平気だったのに。
私は弱くなってしまったのだろうか?
一人でも平気だったのに。

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