月とスッポン  牛に引かれて

お堀が見えれば、念願の上田城なのに、気分が沈む。

胸の奥が掴まれたのように苦しいのはなぜだろうか?
目頭がぐっとして泣きたい気分になるのはなんでだろう?
記憶も定かではない幼い時に感じたこの感情を何て呼ぶのだろう?

俯いた顔を上げる。

私は大丈夫だと。私はもう大人だ。
誰かに縋らないと生きていけない年ではない。

そう、私は大丈夫。
鎌倉の大仏さんの胎内にも、善光寺のお戒壇巡りも出来たのだから大丈夫。

目を瞑り、呼吸を整える。

「私は大丈夫。私を上田城櫓門が待っている」

そう心の中で唱え、ゆっくりと目を開けた。

そこには、大河が立っていた。

ん?
なぜ、私よりも後に来て前にいる?

首を傾げる私に、大河は駆け寄り肩に両手を置いた。

靄がかかっていた視界が、クリアになっていく。
気がする。

うっすらと汗をかき、肩で息をしている。

「置いて行ってしまったかと思いました」

迷子になった子を?親を?見つけて、怒りながらもホッとして泣きそいな顔をしている。

きっと私も同じような顔をしている気がする。
そう思うと笑える。

ふっと笑うと、
「何がおかしいんですか?」
と大河が不服そうに言った。

「車を置いて、手ぶらな私がどこへ?行くと?」

本音を隠すように言うと、大河は眉間に皺を寄せた。

怒らせるのは嫌いだけど、今の大河はちょっと嬉しかった。

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