月とスッポン 牛に引かれて
秘湯はななくり
「今日泊まる別所温泉は信州最古と伝わる温泉地で、日本武尊が7か所に温泉を開き“七苦離の温泉”と名付けたという伝説から“七久里の湯”とも呼ばれています。平安時代に清少納言が“枕草子”において『湯は七久里、有馬の湯、玉造の湯』が三名泉と賞賛され“七久里”が、この別所温泉のことを指すとされています。有馬は現在の兵庫県、玉造は鳥取県ですね。兵庫県には姫路城が、鳥取県には松江城がありますので、一緒に観に行きましょう」
姫路城に松江城。
どちらも国宝で、どちらもいつかは行きたいと思っている場所に心惹かれていたら、「1人でどうぞ」と言うタイミングを失う。
“勝手にどうぞ”
これも何かおかしい
“そんな機会があればいいですね”
うん、これだ!
「そん」まで出たタイミングで車が止まる。
「では行きましょう」
すっかり暗くなった山村に上品な光で灯されたこれまた見るからに歴史を感じる宿に、大河が中に入っていく。
鍵を返してもらっていない。
荷物を忘れた作戦で鍵を返してもらおうにも、自分の鞄と一緒に私の鞄をしっかりと持っている。
手ぶらで放り出された私の選択肢は、大河についていく事しか残っていない。
めっちゃ高そうだ。