月とスッポン  牛に引かれて
飾られている何気ない花や陶器一つ一つが、館内を彩る上品さ、その中にある家に帰ってきたかのような温かみ、歴史を守る誇りを垣間見る事が出来る。

自分の家でも再現できない物だろうか?

そんな想像をしてみるが、1週間も持たないだろうと自分のズボラさにため息が出る。

「置いてきますよ」

フロントにいたはずの大河が中居さんを伴い私の横に立っていた。

慌てて鞄を持とうとするも、一足遅く歩き出す。

和かに中居さんと歩き出す大河の跡を、キョロキョロしながら着いていけば、これはまた。

ここが1番、あの上田を舞台にした映画の世界に近いではないか!

本家であるが故の格式高い背筋がピンと伸びつつも、祖父母の家に来たとホッとする。
気がする、知らないけど。

どこか懐かしい感じがするには、前世の記憶か日本人の本能か。

部屋の片隅に荷物を置き、机の上に置いてあった茶櫃を開け、一休みの準備をする大河を見て我に変える。

「私がやります」

慌てて近づく私に
「これぐらい私にでも出来ますよ」
と微笑む。

座椅子に座るように促され、
「一休みしたら、ご飯を食べに行きましょうね」
とお茶を出された。

「ありがとうございます」
と受け取り一口。
いい旅館のお茶は美味しい。

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