月とスッポン  牛に引かれて
「晩御飯は何が出るんでしょうね」

私の隣に座り、同じように庭を眺めながら大河が言う。

「長野名物が出るんじゃないですか?」
「浴衣を借りれるそうですけど、着ますか?」

「浴衣、着たことがないのでいいです」
「ないのですか?」

「ないですね。浴衣どころか着物?和服全般ないですね」
「着てみたいとは思わないのですか?」

「思わないですよ。一般的に和服を着る時?花火大会とか?書き入れ時なんで、仕事です」

それに似合わないだろうし

そう小さな声で言えば、
「似合うと思いますよ。今度、着物を来て出掛けましょうね」
と優しい声で大河が言った。

「気が向いて、時間があったらね」

また可愛くない返事をしてしまった。

「では、ご飯を食べにいきましょうか。お腹が空きました」

立ち上がる大河に慌ててついて行く。

キョロキョロとしながらゆっくりと歩く私とスタスタと歩く大河の距離が開いていく。

立ち止まったかと思えば、私の手を引き歩き出す。

うん、迷子にならずに安心して館内を見られる。
だから、子供って手を繋ぐのか!
新発見だ。

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