月とスッポン  牛に引かれて
個室に案内され、提供される料理を堪能する。

つもりが、中居さんがどちらから料理を提供するのか、どのように説明するのか、どう接客をするのかばかりが目に入る。

さすが老舗。

自分がしている客への対応が間違っていないことに安心をし、さりげない気配り、自然な流れるような動き。

提供された料理を食べる順番、箸の作法、食べ方。
全てが勉強になる。

なるのだが、講習を受けているようだ。
晩御飯とは?
美味しいけど、まさに食べた気がしない。

だから、大河とちゃんとした所で食べるのは嫌いなんだ。
つい、恨めしく思い大河を見てしまう。

「これ、下さい」

私のお膳から、箸を伸ばし一品奪う。

「代わりにこれを上げます」

と自分のお膳から一品私のお膳に乗せた。

「それ、マナーとしてどうよ」
「個室で私達しかいませんので、大目に見てください」

いたずらがバレた子供のように笑う大河。十分に夕食を楽しめていない私への配慮が嬉しくもあり、恥ずかしくもある。

「じゃぁ、これあげます」

信州牛の朴葉焼を開いたお皿の上に乗せる。

「茜の好きなお肉を頂いてもいいのですか?」
「美味しいので、お裾分けです。ので、そっちの豚下さい」

お皿を大河に差し出せば、「交換ですね」と豆乳鍋に使った信州豚をお裾分けしてくれた。

「これも美味しい」

これ何?これ美味しい!など当たり前な会話が弾む。

やっぱりご飯はこうでなきゃ!

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