月とスッポン  牛に引かれて
お腹いっぱいになり、部屋に戻ろうと歩き出す。
外はすっかり暗くなっていた。

そのまま部屋へと行くかと歩いていると、急に手を繋がれ

「いっぱい食べたので、この近くにある飲泉へ食後の散歩に行きませんか?」

と誘われれば、行ってみたいと思う、飲泉。

玄関にある外出用の下駄に履き替え、夜の温泉街へと繰り出す。

「真っ暗ですねぇ」
「都市部が明る過ぎるだけで、地方だとどこもこんな感じだと思いますよ」
「そんなもんなんですね」

なんて話をしていれば、近くの飲泉が併設されている共同浴場へと到着する。

「入っていきますか?」
「入りません」

キッパリとお断りする。

「この奥に、真田家の秘湯と言われている場所がありますので、そちらにもいきましょう」

出た、真田家。

「真田の秘湯は角間温泉の方が有名ですね。深い山の中にあるので、まさに秘湯ですね。今度はそちらでゆっくりしましょう」
「なぜ?」

私の疑問をよそに話が進んでいく。

とりあえず無視をして、飲泉を手で掬い口にする。
なんだかよくわからないが、体にいい味がする。もう一度口に含み、体にいい事をした気分に浸る。

< 31 / 101 >

この作品をシェア

pagetop