月とスッポン  牛に引かれて
大河とは大学時代に慶太郎の友人という事で、親しくなった。
慶太郎に無理やりつれてこられている印象しかない。

同じ後継者として育てられた私と大河、大小の違いはあれど通じるものがあると期待して会いに行った。
同じ後継者としての苦悩を分かち合える。
そう思っていた。

だけど、会った瞬間それは打ち砕かれた。

自分はなんて甘い考えで生きてきたのか。

淡々と引かれるレールの上を、何事も置いていないように歩く姿を『氷の貴公子』と言われていると知った時、うまく言い当てたなと納得した事を今でも覚えている。

日本どころか世界に名だたる御曹司で、生まれてすぐにトップに立つ事を運命付けられている。
それを支えるのが俺の使命。

慶太郎はそう言って笑っていた。

寡黙で、常に冷静でどこか距離を感じるそんな男だった。

だからこそ、私から話しかける時はいつも緊張していた。

それが今朝慶太郎から
『大河がそっちに泊まるから、2名で部屋取れない?例の件、話を聞くように言っておくからさぁ』
と連絡を受け、渡りに船だと了解した。

信州上田という地で、数多くある温泉地に囲まれて滅びの一途を断ち切る。

「お待たせしました」

ロビーでタブレットを見ている大河に声をかけた。

「お久しぶりです。大体のことは本庄から聞いています」

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