月とスッポン  牛に引かれて
スマホを見ながら言う大河。

これも審査の一つかと、加奈子の顔を見れは、うんと小さく頷いた。

「これぐらいの情報を提供してもいいと思います。それから、この場所をどうしたいのですか?
今、客を増やしたいのか、それともこの地を守っていきたいのか?これではわかりません」

『これでは利益が出ない。出資出来ない』

そう冷酷に告げられる事を覚悟をしていた私は「へ?」と変な声が出た。
不快だ。と大河の顔に書いてある。

『女の子を連れた大河に会うと驚くで』

大阪に行った際、矢島真司が言っていた言葉を思い出す。
表情筋が死んでいるとも言われた大河の感情が手に取るように分かる。

ふっと笑う。
思わず加奈子の顔を見る。加奈子も目を見開き驚いていた。

「それは、この地を受け継いで次の世代に残して行けたらとは思ってます。でも、その前にここがなくなったら意味がないとも思っています」

今の心情を正直に言えば

「最近、文化遺産に触れる機会が多くあり、皆が同じ思いで守っていく事の難しさを実感しています。
初めは同じ思いでも何年、何十年。あるいは何百年という月日が経つと、人の価値観は変わってしまいます。
 それでもなお同じ思いで守っていくには並大抵なことではありません。だからこそ、受け継いでいく信念というべきものが必要です。
私の場合は会社を存続していくだけで良いのですが、あなた方は違いますよね」

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