月とスッポン  牛に引かれて
男として理解に苦しみ点があることは置いておいて、
加奈子は少し納得しているようだった。

「元々、1人で出かけるのを私が無理について来ているだけですから」

大河が言い訳をしている。
ふっと笑いが漏れる。

「大事なんですね、彼女の事が」

「大事と言うか」
と前置きをして、少し恥ずかしそうに

「茜にはずっと笑っていて欲しいとは思っています。
ただ、彼女の幸せを見守れれば満足なのか、私の手で幸せにしたいのか決めかねています」
と付け加えた。

それはつまり、あれだ。

私が言いそうになるのを今度は加奈子が、止める。

「女性は勝手に幸せになります。それを近くで見れるのは、パートナーの特権ですよ」

田舎に戻ると宣言した時、迷わずに「ついて行く」と言った加奈子。

そんな加奈子の言葉に「心しておきます」と大河はつぶやいた。

「安曇野には何をしに?」
「ちひろ美術館へ」
「茜ちゃんのために?」

加奈子がニヤニヤしている。

「近くに美味しいパン屋があるそうで、朝食はそこのパンを食べようかと思っています」
「すごく良いと思う。ちひろ美術館は大きな公園と併設してるから、そこで食べるのは絶対に気持ちいいわよ。
近くのパン屋って事は生田さんの所かな?あそこのパンは最高よ。ここから1時間ぐらいだから」

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