月とスッポン  牛に引かれて
時計を見て、お開きだと、大河が立ち上がる。

勝手に予定を組む加奈子をよそに

「予算や実行可能かどうかをひとまず置いておいて、どうしたいかを考えてみて下さい。
彼女はここを“田舎に住む本家の祖父母の家”と表現していました。少しぐらいお節介でもいいんじゃないですか?」
「田舎はどこもこんな感じですよ。彼女の田舎もそんな感じなんでしょうね」

「いえ、彼女には田舎などありません。ただ理想なのでしょう。
全てがいやになった時に帰ってくる場所がある事が」
「帰ってくる場所ですか?あたりまえだと思っていましたが、あたりまえなど存在しないのかもしれませんね」

「窮屈ですが、帰る場所があると言う事は贅沢なのかもしれません」

そう言い残すと大河は部屋へと戻っていった。

初めて引かれたレールの上に立つもの同士分かち合えた気がした。

私は大きく息を吐き、この地を守って来た人との話し合いという戦に向かう覚悟を決めた。
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