月とスッポン  牛に引かれて
「おはようございます。朝までぐっすり眠れました。
行きたい場所がいっぱいでここの朝食が食べれないのが残念なので、また来ます」

次来る事はないだろうとは思うが、爽やかには爽やかにノー天気に返すのが1番。

「それは、心からお待ちしております」

フフフ、ホホホと微笑み合う。
向こうもこちらの意図を汲んでいる。

お主、なかなかやりおるな
お代官様ほどでも

そんな声が聞こえて来そうだ。

そんな空気を壊すかのように「間に合ってよかった!」と奥から身重な女性が出て来る。

そんな体で重そうな荷物を持って走っちゃだけでしょう!

驚く私以上に亭主が慌てている。

身重な女性を支えながら
「無理はしないで下さい」と叱っている。

女性にとってはいつもの事なのだろう。

「ごめん」と軽く流している。

爽やか隠れ腹黒亭主に、ほんわか女将。ナイスなバランスだ。

「これ持ってって」

そう言って、少し重みのある籠を渡される。

大河を突付き、「これ、絶対いいヤツ」とアピールする。

のに、「よかったですね」と微笑まられる。

絶対わかっていない。

「これの籠、絶対高いって」

声は小さく、でも力強く言う。

「へぇ」と伝わったようだかわかっていない。
大河ではなく、女将の方がわかったのか。

「ここ籠は高齢者レクリエーションで作ってるものなの、だから全然高い物じゃないのよ」

手のひらサイズの籠バックを私に差し出す。

「これも普段使うにちょうどいいからよかったら使って。財布とスマホぐらいしか入らないけど、ちょっとした買い物には便利よ」

< 42 / 101 >

この作品をシェア

pagetop