月とスッポン  牛に引かれて

「時間が流れていると安心します。無力だった自分から、離れていく。自分の力だけで生きていけるようになっていると思うとホッとします。
 誰かの支えがないと生きていけない。誰かの手を借りないと生活できない。そんな時が止まっていると思うと、死にたくなりますよね」

私は何を言っているのだろう?

海にすら言えない事を、なぜ大河に話しているのだろう。

「そうなんですか」

こんな話を聞いて大河の反応が怖く黙っていると、大河がそっと呟いた。

そこには、哀れみも同情もなく、ただそういう考えもあるんだという感想のように淡々と呟く。

それが私には心地よかった。

本音を言ってしまった気まずさをごまかす為、
時間を確認すれば、美術館の開館まで少し時間がある。

「荷物を車に置いてきます」

居た堪れなく立ち上がる。

ついでに散策でもして、時間を見計らって戻ってこればいいか。

そう考えていれば、大河も起き出す。

「向こうに電車があるそうなので、行ってみましょう」

お前も行くのかよ!

とツッコミを入れそうになる。

慣れた手つきでシートを畳み、軽々と荷物も持ち、颯爽と車へ向かっていく。

私がしようとしていた事を全て奪われた。

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